夏の雲雀は かろやかに

        *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
         789女子高生設定をお借りしました。
 


       




実をいや、故意に見過ごす、もとえ看過するという手だってあった。
お嬢様だからって、誰でも彼でも
おっとりしていて世情に鈍く…はないのだが、
さりとて、そのお立場を思えば、
軽々しく騒動へ飛び込んじゃあいけないという方向からの自制も必要。
何かあったら一大事というのみならず、
徒にマスコミに取り上げられては家名に傷がつくやもしれぬ。
そんなじゃじゃ馬、もとえ、冒険好きな跡取りだったとはなんて評価され、
下手を打てば事業に影響が出るやもしれぬ。
時にはそこをまで考えて行動しなきゃあならぬのが、
大きな家名を背負っている身へと強いられる、責任や義務という名の枷であり。
そうそう何にでもクチバシを突っ込むものじゃあないと、
よほどの非常事態、報告の義務があるよな代物でもない限り、
身の安全を優先し、対岸の火事扱いでいるべきだ…とされる方々でもあるのだが。


  ―― そこんところが、普通一般のお嬢様とは一味違う彼女らだったので。


違ってくれなくていい、
ありふれたお嬢様でも いろんな経験は出来るのだから十分だろと、
周囲の、特に彼女らの真の気性を知り尽くしている大人たちには、
頭の痛い話でもある“そういうところ”。
こたびもあっさりと発揮されたようであり。




       ◇◇


小さめの携帯をぱたくりとワンアクションで閉じた七郎次が、
あとの二人へ“ん〜ん”とかぶりを振って見せ。
それへと、久蔵と平八が“是
(うん)”と重々しく頷いた。


あれからもう2カ月経ってるとある事件。
五月祭の女王に冠されたティアラに関わりがあった、
この三人を襲わんとした不埒な顔触れがあり。
元は侍、そんな矜持が疼いたものか、
彼女らだけで構えた罠にて、誘い出しての捕えてみれば……
何と学園出入りの宝飾店の店主と従業員で。

 『盗み出した宝飾品を分解し、
  この学園内のあちこちへと隠していたらしくてな。』

名のある像や礼拝堂の書見台などなどには、
厳かなものながら それなりの装飾もされてあるので。
こんな石ついてたっけ、最初から象眼されてなかったっけ?
曖昧なままに さほど注視もされぬまま、
これまで何とか誤魔化せていたはずが、
たまたま1つ外れてしまっていたらしく。
こそりと付け足した代物、堂々と探しも出来ずで自分たちでの回収を図った結果、
逆に、頼もしき女傑らに首根っこ掴まれてしまったのが、
先だっての騒動だったわけだけれど。

 「自分たちが隠した訳じゃあないものを探してるとか?」
 「そうと思えばこの人たちの態度も合点が行くってもんだ。」

ここは男子禁制の女子高生たちの花園だから、
先の宝石商のような肩書や立場でもなけりゃあ、
彼らのような面子が踏み込むことは絶対に不可能。
撮影というのは口実で、
秘密裏に何かを探していると思えば、何とも嵌まる仕事っぷりじゃあなかろうか。
そして、ここには縁のないはずな彼らが一体何を探しているのかと、
七郎次が想像と思索の翼を広げた先にあったのが、

  ―― そうだ、例の虹宮堂の一件の。

あの時に様々な贓物を隠していた場所というのが、
大胆にも学園内の記念スポットばかり。
そういう場所にこそ美術品があったり、
その気もないまま監視されていて無事だったりしたかららしいのだが、

 「事件の次第は、アタシらの名前だけ伏せる格好で全てを公表されたでしょ?」

舞台となった学園の名から、押収された物品から、
洗いざらいを公表し、取材されての新聞記事にもなった。
名を伏せたため、お手柄女子高生という取材攻勢こそ掛からなんだが、
学内では時の人っぷりに拍車が掛かり、
シスター長や各々の保護者と、
もちっと傍らから見守る格の大人の皆様がたからも チクリとお灸を据えられて、

  ………いやそれは置くとして。
(苦笑)

 「礼拝堂に、聖堂に温室。野外音楽堂に、集会所の洋館。」
 「あと、前庭のマリア像と来れば。」
 「ホント、盗まれたものの隠し場所になってたトコばかり。」

本館の階段の大鏡とか学長室の大時計とかは、
場所じゃなくってそのものを調べられてるから除外したのかな。
っていうか。

 「……そこにはもう何にもないはずなのに、今更何を探しているわけ?」

そう。
場所への理屈はそれで当てはまるし、
彼らの態度も捜し物という行動にぴたっと重なる。だが、
肝心な贓物は押収された後だ。
というか、

 「そんな事件があったって記事を見てのこと、っていう探し方だよねぇ。」

警察が様々な贓物を押収したこと、公けに報じた箇所ばかり…とも思え。
だが、だとすると理屈に合わぬのが、
贓物目当ての行動だってのなら、順番がおかしいというところ。

 「…まさか、警察が押収し損ねたものがあるとか?」
 「でも、だったら尚更、同じ場所を浚っても意味ないんじゃない?」

  さあ、張り切っていこうね、今度はカフェテラスだからね。
  は〜いvv
  ここって何がお薦めなの?
  カフェラッテが人気です、あとクロワッサン・サンドとのセットとか。
  ふ〜ん、おしゃれなメニューがあるんだねぇ。

あ・そこ、気をつけてくれな、そのテーブルだって由緒ある代物だ、と。
途中からスタッフへの指示に切り替わったカメラマンさんのお声が、だが、

 「気のせいかな。」
 「? 何が?」
 「あのカメラマンさんの態度よ。
  怪しい一味って、そういう頭で じいっと見てるとさ、
  指示出してたり指図して使ってる側には違いないけど、
  微妙に丁寧で腰が引けてるような。」

特に、あの携帯使ってるお兄さんへ。
目は行くけれど、一度だって注意はしないじゃない。
かといって、目配せの気配もないから、

 「凄いぞ、林田。」
 「うんうん、凄い観察眼。」
 「えへへぇvv だって時々助け求めてるような眸になるんですもの。」

あ〜〜〜、ゴロさんに言ってやろ。
あ、あ、ダメですよう。////////
良いじゃない、母性本能が強いんだってことで納得してくれるわよぉvv
それだけじゃないでしょ、シチさんの狙いわっ。////////

 「…脱線している場合か。」

まったくである。
(苦笑)

 「窃盗がらみの荒ごとへまでは関わってない人なんじゃあ。」
 「此処への潜入の伝手にって利用された?」
 「納得ずくな部分もあっての協力みたいだけれど。」
 「それか、何かを押さえられて脅迫されてるとか。」

何かを盾にされ、力づくで強制されてのこと。
それでもああまで軽やかに振る舞っての、
素知らぬ振りでの撮影会だというのなら、

 「……母性本能の発動なんて要らないほど、結構強かで逞しくない?」
 「だから違いますって。////////」
 「話が進まん。」

  ………閑話休題。(それはさておき)

さあどうしたものかと、
皮肉なことには汗を拭うのさえ忘れるほどの集中で、
彼女らがまずはと考えたのが。

  ―― その“怪しい”を、究明暴露すべきか否か

此処までのあれこれは、だが、
あくまでも感触から組み立てた想像の範疇内での話で、
何一つ傍証はないことばかり。
彼らが何を探しているのかは結局のところ不明だし、
気づかないままでおれば、自分たちは無事である公算も高い。
カメラマンのお兄さんだけが、この怪しい一団の仲間内ではないとしても、
やはり…余計なことをしない方が波風立てなくていいのかもと思わないでもなく。
ただ、

 「ここのカレンダー制作っていうお仕事は、
  本来なら別の、
  長年続けていた同じカメラマンさんが請け負ってたのよね。」

そして、アタシらが声をかけられたおり、ちらっと思い浮かべたお人も、
そのカメラマンさんの関係者、お弟子さんではなかったか。
この人がそうであるように…と、
それを思い出してハッとした七郎次、
撮影ポイントの移動中、
さりげなく手にした携帯で掛けてみたが、何の応答もないと来て。

 「……まさか、楯にされてる存在って。」
 「うあ、それじゃあやっぱり、」

これは捨て置けませんねぇと、
そういう意味合いからの、
しっかとした頷き合いを交わしたお嬢さんたちだったということは?





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